50過ぎから「長」体質に

1996年には日本文藝家協会で島田雅彦さんと私が戦後生まれ初の理事になりました。その後、島田さんは理事会にちっとも出て来ないのに、私は真面目に出席していたら、常務理事、副理事長と、だんだん役職が上がっていったのです。

「ああ、そうか……。こういうふうに、きちんと出席して真面目な姿勢を見せれば、ちゃんと認めてくれる人がいるんだ」

それは企業に長く勤めたことがない私にとって、少しびっくりするような感覚でした。そして2020年には女性初の理事長になりました。

「50歳を過ぎたら、仕事の三割はお金をもらえないことをやりなさい」

と以前どなたかに言われたことがあります。それが頭の中に刷り込まれている私が50代から力を注いでいるのが、「エンジン01文化戦略会議」の活動です。11年間にわたり幹事長を務めています。

この「エンジン01」での経験が、私を大きく変えてくれました。

三枝成彰さんや茂木健一郎さんなど個性豊かな各界の著名人たちが揃う団体を調整しながらまとめていくのは本当に大変です。こちらの顔を立てたらあちらの顔が立たなくなって不満を聞いたり、寄附金集めに奔走したり。随分人間力が鍛えられました。そんな時に、
「ハヤシさんだから、みんなついてきてるんだよ」
と言ってもらったことがあります。私がいちばん聞きたかった、嬉しい言葉でした。

振り返ると、学級委員をやりたくても断固阻止されていた女の子が、徐々に徐々に覚醒して50代以降になって「長」になるまで体質改善を重ねていったような感じです。人間って変われるんだなあと自分でも不思議になります。

さて、この先、私はどのように変化していくのでしょうか。想像もつきません。

※本稿は、『成熟スイッチ』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。


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