人は年をとると精神や人間性が成熟へと向かうと語る林真理子さん。その意味で、瀬戸内寂聴さん、渡辺淳一さんの影響を強く受けているそうです(写真:森 清)
22年7月1日、日本大学の理事長に就任した作家・林真理子さん。就任後には体制を一新、私立大の理事の9割が男性と言われる中、自らの意向に沿って林さんを含めた新理事22人のうち4割に当たる9人を女性にするなど、精力的に大学改革を進めています。その林さんが、自らの人生を振り返るに、「成熟」という意味で、先輩作家である瀬戸内寂聴さん、渡辺淳一さんの影響を強く受けているそうで――。

あんみつ屋でのアルバイトの思い出

今から五十年ほど前、日本大学芸術学部の学生だった私は、池袋のあんみつ屋でアルバイトをしていました。

ところが人並み外れてトロくて動きが鈍い上に、言われた仕事を右から左にすぐ忘れてしまうのです。電話に出れば、相手の電話番号を復唱することが出来ない。数字の復唱は今も苦手です。

あんみつ屋のアルバイトのヒエラルキーでは、最上位のチーフだけがフルーツあんみつのトッピングをするのを許されていました。当然、私はやらせてもらえません。アルバイト初日から押された〝使えない子〟の烙印が消えることはありませんでした。

そんなある日、あとから入った高校生の女の子が、大学生の私を差し置いてチーフに任命されたのです。

「うそでしょ……」

最初はちょっと驚きましたが、次の瞬間には、

「きっと私はこれからも一生チーフにはなれないんだろうな」

と思ったものです。