「絶対に行くな」と止められて
唐十郎作、蜷川幸雄演出による『下谷万年町物語』(81年)では、500人もの応募者の中から謙さんが主役に選ばれ、すでにアングラの女王として名高かった李礼仙(のちの李麗仙)と共演した。
――転機と言えるのは、この芝居そのものというより、これを観たNHKのあるプロデューサーが、「この子は大事に育てるべきだよ」と、劇団のマネージャーに言ってくれたこと。
それから5年くらいかけていくつかのテレビドラマ、NHK朝ドラの『はね駒(こんま)』、そして大河の『独眼竜政宗』へと大きくつながるステップを作ってくれたわけですからね。
先ほどのお話の『プラトーノフ』で共演した大女優の岸田今日子さんはね、もうお袋みたいなものでしたよ。テレビドラマの『御家人斬九郎』ではお袋役でしたしね。映画『海と毒薬』でも一緒に出ましたけど、からむところはあまりなかった。
今日子さんとは別の仕事をした時も「あの時の役は、ちょっとこうだったわよね」とか、グサーッとやられて。もう全部見透かされてるって感じで、優しくもあり怖くもありました。
亡くなった時はかなりショックで、まだまだ僕のブロードウェイの舞台なんかも観てほしかったなと思いましたね。