亀屋良長「円山の桜」

京都には数多の桜の名木がありますが、八坂神社の奥にある円山公園の枝垂れ桜もそのひとつ。春には花の苑となる円山公園の中央に植えられている古木で、昼間はもちろんのこと、夜の姿の美しさはこの世のものとは思えないほどです。

東山からぽっかりと浮かぶ月を背景に幽玄な佇まいを見せる東山魁夷の名作「花明り」にも描かれるなど、多くの人から愛されています。

そんな桜の名前を冠した春の菓子が亀屋良長の「円山の桜」。桜の花の塩漬けを入れた餅羊羹の上に、透明な錦玉羹を流し、さらにその上に薄紅色の羊羹で花びらをかたどったものをのせています。

棹物ですので、切り分けた際に断面に桜の意匠が重層的に現れます。見た目も味も楽しみつつ、銘から京の春へと思いを馳せることのできるゆかしい菓子です。