ただ、最大の目標にしていた世界選手権の複合では4位。アジア大会の直後で疲れが抜け切っていなかったこともありますけど、この成績には自分の弱さも感じましたね。

昨年の複合の世界ランキングは2位。つまり現在の私の実力は世界2~4位。東京でのメダル獲得を確実なものにするには、世界ランキング1位のヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)と肩を並べるようにならないと。まだ彼女の背中は遠いですが、今シーズン中にはその差をグッと縮めるようにしたい。

今、日本では10代の若い選手たちが大勢台頭しています。ボルダリング施設を持つスポーツジムやショッピングセンターが増え、身近なスポーツになってきたことが後押ししているのだと思います。一方で、日本にはリードやスピードの練習ができる高さ15メートル級の壁が少ないため、複合種目で勝つにはこの環境が大きなネックになっています。

だから複合はどうしてもオーストリア、フランス、スロベニアなど山岳に恵まれ、昔からクライミングが盛んな国が強い。日本人選手がリードやスピードを練習する時は、オーストリアなどに出向かなければならず、遠征費用の負担も大変でした。

でも16年に、日本を代表する男女のトップクライマーの所属先として「TEAM au」がサポートを始めてくれてからは、個人的負担は大幅に軽減され、とても助かっています。

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スポーツクライミングは、身体への負荷が非常に大きい競技。覆いかぶさるように聳(そび)え立つ壁面を、自身の体重をコントロールしながら登り、時には「ホールド」(突起物)にかけた指先や足の甲だけを支えに体を持ち上げねばならない。

そんなハードな練習を繰り返してきたため、野口の指先は擦れて指紋が消え、足の親指には大きなこぶが盛り上がっている。指紋が消えるほどになると、髪を洗うのもつらく、痛むという。

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指紋は練習を休めば復活しますが、それでもスマホの指紋認証は使えないので、顔の特徴で認証するシステムができて嬉しい。(笑)

スポーツクライミングは体だけでなく、頭も使います。瞬時に正しいムーブを選択し、その地点に行くのに自分の体をどう動かせばいいのか判断しなければなりません。このスポーツが“体のチェス”と言われる所以です。だから試合が終わると、体以上に頭が疲れてしまう。

また、リードは持久力、ボルダリングは瞬発力と、真逆の能力を同時に求められる種目でもあります。陸上の長距離と短距離を同時にこなすようなものですね。

一つとして同じ壁はないものの、試合前に壁のホールドを見て、パッと体の運び方をイメージするには、経験値が高いほうが絶対有利。自分自身、経験の分母が大きくなればなるほど、ミスの確率は低くなりましたから。