ひとりぼっちではない感覚
そのあと、N響のコンマス・篠崎が、ハハイドンの弦楽四重奏曲「皇帝」の第2楽章・編曲版を披露する。圧巻だった。
5曲目。東京フィルの副首席トロンボーン奏者・辻姫子が、希望の光をもたらすような讃美歌「アメイジング・グレイス」を舞台中央で奏でる。すると途中で、2階席の上手と下手にあるバルコニーに、N響の首席トランペット奏者・長谷川智之と、都響の首席トランペット奏者・高橋敦が現れ、トロンボーンに音を重ねていく。
金管3本のトライアングルの響きの中に包まれ、観客はひとりぼっちではない感覚を味わっていく。
神奈川フィルのコンマス・石田泰尚は、ピアソラが旅先で父の死を知り書いた「アディオス・ノニーノ」を、繊細に、孤高に響かせた。
7曲目は、弦と木管楽器を中心にした9人の奏者が、映画「ニューシネマパラダイス」(モリコーネ作曲)を奏でた。3年前は、映画館もテーマパークもエンターテインメント施設もどこも、行くことが叶わなかった。
その次は管楽器10名とチェロ2名によるエルガー「威風堂々」である。スポーツの祭典などで演奏されることの多い行進曲だが、あの頃はオリンピックの延期が決まり、野球やサッカー、ラグビーなども中止や無観客試合になるなどしていた。
どちらの演奏も切なく、哀しみと慈しみを帯びていた。
前半最後は、日本が世界に誇るコンサートマスター、N響・篠崎、都響・矢部、神奈フィル・石田の3人による、エルガー「ニムロッド」だ。敬虔な祈りの曲を、3人はコロナに苦しんできたすべての人々に贈るのだった。