魁皇は、玄人の相撲ファンにも子どもにも好かれていた
今場所は十両も面白かった。優勝したのは昨年の名古屋場所で幕内初優勝をした十両3枚目・逸ノ城で、成績は14勝1敗。優勝が期待された元大関の十両筆頭・朝乃山は、逸ノ城に負け、幕内での相撲では前頭15枚目・王鵬に負け、13勝2敗で終わった。朝乃山は、千秋楽では、入門から一場所で十両に昇進した14枚目・落合に苦戦したが、根性で勝った。
落合はうまい相撲を取るが、11日目に逸ノ城と対戦し、立ち合いに猫だましをした。逸ノ城は全く動揺せず、落合は負けた。猫だましは師匠の宮城野親方(元横綱・白鵬)が横綱の時にやり、非難を浴びた手である。19歳の実力ある力士は、立ち合いに、小技は使わないで堂々と対戦相手にぶつかってほしい。成績は10勝5敗だった。
コロナ禍で声援が禁止されていたが、今場所は許可され、観客の声援はタイミングが良かった。14日目の前頭筆頭・玉鷲と前頭6枚目・佐田の海の対戦で、物言いがついた。審判長である浅香山親方(元大関・魁皇)たちが土俵に上がった。「あるな」と思っていたらあった。「カイオー、カイオー」の声援。
魁皇が豪快な投げを打ったとき、NHKのテレビアナウンサーが「みんなの好きな魁皇の上手投げ!」と叫び、私は魁皇もアナウンサーもお見事と思ったことがある。魁皇は、玄人の相撲ファンにも子どもにも好かれていた。
私は、物言いで親方たちが土俵に上がったり、勝負審判交代で席に着くときに、現役時代の四股名でファンが声援を送るのを聞くのが大好きだ。長く相撲を愛してきた証拠である。
今場所のように横綱と大関が不在でも、毎場所優勝力士が違っても、またその逆に横綱・白鵬が勝ち続け、横綱・北の湖が憎まれるほど強すぎても、長い大相撲の歴史の中のドラマとして受け止める。好調な成績で昇格する力士もいれば、怪我に苦闘する力士もいる。大相撲は人間のドラマだ。それに気づいて見続けるのが、真の大相撲ファンなのだ。