プライベートの旅行にて(写真提供:石井ふく子さん)
『渡る世間は鬼ばかり』『ありがとう』など、数々の名作ドラマを世に送り出し、96歳になった今も仕事を続ける現役最高齢のドラマプロデューサー・演出家の石井ふく子さん。4月9日に放送予定の新作ドラマ『ひとりぼっち』製作の裏側とは――

天国の橋田壽賀子さんに届けたいドラマ

2022年10月30日。23年4月に放送予定の橋田壽賀子さん追悼ドラマ『ひとりぼっち』の撮影初日を迎えました。この日を、どれだけ待ち望んでいたことか。気持ちがたかぶり、前日の夜からほとんど眠ることができませんでした。

それまで60年ちょっと、テレビのプロデューサーと舞台の演出家として走り続けてきましたが、コロナ禍の影響でしばらく仕事ができませんでした。さらに21年4月、長年の盟友だった橋田壽賀子さんが亡くなり、生まれて初めてといってもいいほどの喪失感が続いていたのです。

「いよいよ今日から現場が始まるのよ。橋田さん、天国から見守っていてね」

私は祈るような気持ちでそう橋田さんに語りかけ、朝6時半に家を出て、都心から離れた場所にあるTBSの緑山スタジオに向かいました。

長年一緒に仕事をしてきたスタッフのなかには、コロナの影響で仕事が減り、いっそもう辞めようかと思っていた人もいたようです。そういう方々も、この日、再集結。感無量でした。

スタジオに到着すると、気持ちがピシッと引き締まりました。昨今、時代の変化に加え、コロナもあって、人と人との距離が離れがちです。そんなときだからこそ、もう一度、人と人のつながりの大切さを世に問うドラマをつくりたい。それが橋田さんへのなによりの供養になる―そう思って、時間をかけて準備してきたドラマです。