今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『がらんどう』(大谷朝子 著/集英社)。評者は書評家の東えりかさんです。

「推し」で繋がったアラフォーたちの共同生活

最近、女性のバディ小説に人気が集まっている。性的に差別されてきた女性が世間の荒波を越えていく物語は、痛快な作品が多い。読者の皆さんもそう思ってくれると思う。

主人公の平井は40歳手前。小さな印刷会社の経理を17年間務めている。何でも解決してあげるので「平井先生」と呼ばれている。

ルームシェアするのは菅沼という40過ぎのフィギュア職人だ。死んでしまったペットの犬の写真から3Dプリンターを使って、生前の姿を作りあげ、彩色をおこなった完成品の犬の像が、のちに飼い主のもとに届けられる。

部屋の床には失敗したフィギュアが転がっている。中は空洞で想像より軽い。こんなもので飼い主の心は満たされるのか、平井には想像もできない。

ふたりの出会いは、平井の勤める印刷会社のシステム化作業だった。菅沼はシステム会社の社員に過ぎなかったが、ふたりには共通の趣味があった。「KIDash」という男性デュオのアイドルだ。平井は「五十嵐」、菅沼は「こばっち」推し。これが決め手となってルームシェアを始めたのだ。

だがアイドルも年をとり結婚する。こばっちが15歳も年下のグラビアアイドルとデキ婚を発表。どん底まで落ち込んだ菅沼のため、ふたりは唐突に旅に出る。それだけで傷心は癒えてしまう。

アラフォー世代の女性たちは揺れ動く。イマドキ独身は珍しくないけど、ひとりの寂しさは募る。子どもをどうするか判断がつかないまま、未来のために準備をしてしまう。

マッチングアプリに登録しても、アプローチしてくる男にろくなのはいない。中身がないのは自分も同じだと気づいてもなんとなく流されてしまうのは、アラフォーが未来を諦めきれない年代だからだろう。

でも私が通り過ぎたあの頃、よく頑張っていたと今は思う。彼女たちも10年後、懐かしく思い出してほしい。