今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『「本当の」わたしに会いにいく』(グレノン・ドイル著、坂本あおい訳/海と月社)。評者は書評家の東えりかさんです。

私らしさも、幸せも、手に入れられるのは自分だけ

オリンピックで二度の金メダル、2015年のFIFA女子ワールドカップでアメリカを優勝に導いた女子サッカー界のレジェンド、アビー・ワンバック。彼女が2019年に上梓した『わたしはオオカミ』には、「なりたい自分になる」ノウハウが描かれている。

パートナーとして紹介されているのは3人の子どもを持つグレノン・ドイル。本書の著者だ。アビーとの出会いが《「本当の」わたし》を見つけるきっかけだった。

10歳で過食嘔吐を覚え、親と対立しながらアルコールと薬物の依存症を経て26歳で妊娠。そのことで我に返りしらふとなってお腹の子の父親と結婚し、女性に期待される人生を築くことを決意し実行しはじめた。

3人の子を持ち、良き母、良き娘、良きクリスチャンとなったが夫の浮気で躓く。子どもたちの良き父である夫を許せない。ではどうしたらいいのか。何が不満なのか。考え続ける。それが終わりを告げたのは突然だった。

結婚生活における償いを描いた本がヒットして人気作家となった40歳のある日、グレノンはアビーと出会い、ひと目で狂おしい恋に落ちた。言葉も交わしていないのに、彼女とパートナーになっている自分を想像できた。「あり得ない!」という声を打ち消すために、自分の人生を手に入れるために、あらゆる代償を求められても行動できるのは自分だけ。

その覚悟が決まった時が自由への第一歩だった。「自由」と名付けられた章では、幼いころからアビーに出会うまで、自分自身で抑制し続けた日々が綴られる。胸にくすぶっていた不満や軋轢の鎖を一つずつ解き放つ過程は衝撃的だが解放感に満ちている。

いまの自分の何が不満なのかわからない女性なら、この本は救いになるだろう。名言の宝庫で、付箋を貼っていたらふさふさになってしまった。