(写真提供◎illust AC)
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんによる『婦人公論』の新連載「老いの実況中継」。90歳、徒然なるままに「今」を綴ります。第2回は、【《体育会系》になろう】です──。 (イラスト=マツモトヨーコ)

お行儀は悪いけれど、至福の時間

「また、寝っ転がって本を読んで。お行儀が悪い!」「目が悪くなるわよ!」

みなさまのなかには子どもの頃、親御さんからそんなふうに怒られた方もいるのではないでしょうか。ところがわが家では逆。私が娘から怒られるのです。

先日も仕事から帰宅した娘が、たぶん安否確認もかねて私の部屋に来て、いつものお小言。わが国には「老いては子に従え」などという格言があるようですが、ベッドに寝っ転がって読書をするのは私にとって至福の時間なのです。これを取り上げられたら、大げさではなく生きている甲斐がないので、お小言は聞き流しています。

ベッドで本を読んでいると、猫が体の上に乗ってきます。猫を落とさないように気をつけていたら、ある日、私がベッドから落っこちてしまい、頬にしばらくあざが残ってしまいました。

「どうしたの?」と娘に聞かれ、のらりくらりごまかしていたのですが、結局、経緯がバレてしまい――その件以来、さらに娘の叱責が増えた気がします。

寝た姿勢で本を読む癖は、いまに始まったことではありません。私は中学1年生で結核を発症、丸1年と1学期の間休学し、ほぼ寝ている生活を送りました。

早世した兄が残してくれた本と猫がいなかったら、退屈で耐えられなかったでしょう。本を読み、猫を抱いて寝て、日々をやりすごすことができたのです。割合とお行儀にはうるさい家でしたが、娘が不憫で怒れなかったのだと思います。

そんなわけで80年近くの年季が入っている習慣なので、いまさら変えることはできません。枕元に読みたい本、読まなければいけない本を積み上げて、次はどれを読もうかと楽しみにしています。