擬声語における咳の音の正当性

わたしが3度目のコロナに感染してしまったからだ。今回のコロナの症状は、喉の広範囲が腫れて耳まで痛いが、熱はそれほど上がらなかったので、机に座って仕事を続行する。

が、コロナ罹患中の音声入力はきわめて難しいことに気づいた。咳が出るからである。

「本書の読みどころは、海外における……ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホゴホゴホゴホッ」

と音声入力の途中でつい咳き込んだら、

「本書の読みどころは、海外におけるのったんですってるんですって、部って、ほぼVAT前」

と、まったく意味不明の文章が入力されている。だいたい、咳のどこが「のったんですってるんですって」と聞こえるのかわからない。これは、日本語の擬声語における咳の音の正当性を疑わせるものだ。しかも日本語で入力しているのに、VATなどという付加価値税を意味する英国英語が検出されるのはなぜだ?

絵=平松麻

気を取り直してめちゃくちゃな文章を削除し、再び音声入力を始めるとまた咳が出る。

すると、今度は音声認識のツールバーが「何ですか?」と聞いてくる。再びしゃべろうとするとまた咳が出て、カーソルが勝手に別のページに飛んだり、「番号を言ってからOKと言ってください」と告げてきたり、「円あってえ、うえいうえ」とまたいい加減なことを入力したりしている。

これでは仕事にならないと思い、机にうなだれていると、息子がげらげら笑いながら部屋に入ってきた。