チャットGPTが知る私の情報
「すごいよ、これ。見て」
と言って、自分のスマホをわたしに見せる。なんでも、昨今はやりのチャットGPTに英語でわたしのことを聞いてみたのだという。
「わたしは日本語のライターだから、英語で聞いてもAIが知ってるわけないじゃん」
余裕でそう言ったのだったが、先方はわたしのことを知っていた。というか、正確に言えば知っているふりをしていた。
「ブレイディみかこ。英国ブライトン在住のライター」
そこまではいい。しかし、問題はここからだった。
「彼女の代表作は『Impossible Love』。英国に渡った日本人の女性と、英国人の男性が恋に落ちて結婚し、生まれ育った文化の違いや価値観の壁にぶつかり、徐々に心が離れていく歳月をリアリスティックかつユーモラスな筆致で描いた悲恋の物語」
わたしはそれを読んでのけぞった。
「なんじゃ、こりゃー」
「母ちゃん、こんな本も書いてたの?」
「書いてないよー! いったいどこからこんな情報、拾ってきてんだよ。しかも英語で」
「あっはっはっ。でも、それっぽいよねー」
「それっぽくないよー。だいたいなんだよ、『Impossible Love』って。そんなダサいタイトル、わたしはつけないよ」
息子と2人で騒いでいると、「なんだ、なんだ」と連合いまでやって来た。チャットGPTがわたしについて語ったことを息子が説明すると、連合いが、
「おまえ、本当にそんなの書いたのか?」
と真顔になって聞いてくる。
「いや、だから、書いてないって」
事実無根の解説もあそこまで自信たっぷりに展開されると、頑なに否定しているこちらのほうが形勢不利な気分になってくる。
ここでまたゴホホッと咳が出た。家族としゃべっている間は「何ですか?」と言って停止していた音声認識ツールが、こちらが咳き込み始めた途端に入力を始める。わたしの咳は日本語なのだろうか? 「BOTるんで、るんですってほっです」ってわたしはそんなこと言ってないのに、先方は自信満々で入力していく。
人間はまだAIに取って代わられるわけにはいかない。あいつら、「すみません、わかりませんでした」とは絶対に言えないらしいからである。