知れ渡った不倫の噂
清美さんの父親は、私の父より少し年上で、小売店を営業していた。清美さんとご主人が、その店を手伝っていたのである。私が店に行くと、清美さんはいつも嬉しそうに出てきて、親切に商品の説明をしてくれた。
清美さんが亡くなったあと、その店に行くと、清美さんのご主人がその死を嘆くので、父親とご主人が気の毒で、私の足は、その店から遠のいた。
それからしばらくして、母が買物から戻り、怒った顔をして言った。
「パン屋で聞いちゃった。清美さんは、お父さんの不倫に死ぬまで悩んでいたそうよ。近所で噂になっていることも知っていて、すごく気に病んでいたんだって。亡くなった奥さんが病気で入院している時から不倫をしていて、不倫相手はお店から少し離れたところに住んでいる奥さんなんだそう。お父さんが不倫をするような人ではないとは、私は言えないけどね」
近所の噂を気にしていたことには、思い当たることがあった。
清美さんが店で私の相手をしてくれた後、私が店から出ると、店にいた中年の女性が追いかけてきた。
「あの娘さん、なんであなたには感じがいいの?私も私の友達もあの店には行くけれど、あの娘さんは感じが悪くて、店員には向いていないって2人で言っているのよ」
私には意外な質問だった。
「清美さんが感じが悪いなんて、考えたこともありませんでした。私の父が、清美さんのお父さんと仲が良いせいかなあ?」
「お父さん同士が仲が良いからなのね。分かったわ」
彼女は納得して、去って行った。
清美さんは、父親の不倫が近所で噂になっていることを知り、神経質になっていたのかもしれなかった。