父の罪
私が父と最後に映画館で見たのは、『ゴッドファーザー パート3』だった。
映画の最後の方で、アル・パチーノが演じるマフィアのボスは、自分が射殺されるのをまぬがれたものの、娘が銃弾を受けて目の前で死ぬのだ。アル・パチーノが口を大きく開けて、娘の死に慟哭する演技が忘れられない。
その映画を見て、私は清美さんのことを思い出した。
「清美さんのお父さんは、どうやって近所の奥さんと連絡をとっていたの?」
携帯電話がない時代だ。不倫相手の家にはご主人がいるときもあっただろうから、電話連絡ができなかったかもしれない。
父は昔のことだからと話し出した。
「俺が生命保険会社の営業マンに化けて、不倫相手の家に行き、連絡係をしていた。だからご主人は、俺が生命保険会社の人だと思っている。温厚な感じの男だったな。ご主人がいるときは、指を二つ立てたら、明日2時にいつもの場所で、とか手振りのサインを作っていた」
父に後悔の様子はなかった。
なんということだ。清美さんの父親との男の友情は、こんなことだったのか、と私は嘆かわしくなった。