父に老いと病気の症状が見えだすと、愛人と父が信頼していた男は去ってしまった。膨大な会社の借金だけが残った(写真提供:photo AC)
今日本には、警察庁に届け出ている探偵事務所が5000から7000社あると言われています。そこに持ち込まれる浮気や不倫調査の件数は年々増加傾向にあるそうです。慰謝料や賠償金の相場はケースによって異なりますが、一般的に100万円~500万円。ただ、金額以上に失うものも大きいものです。
連載『スー女の観戦記』でおなじみのしろぼしマーサさんは、押し入れの奥から出てきたお土産の通行手形から、今は亡き父との思い出がよみがえり――

<前編よりつづく

残ったのは膨大な会社の借金だけ

父には信頼している男がいた。

父の親しい人が、私に教えてくれたのだが、その男は、「俺が会社を継いで、老後は面倒をみてやる。あなたの息子は精神を病んでいて駄目だし、娘は結婚して家を出て行くから、面倒はみてくれないよ」と言い、父に金銭をたかっている、というのだ。

父に問いただすと、「俺だけじゃなく、奥さんと精神病の息子の面倒もみると言ってくれている」と、嬉しそうに答えた。

父は、さんざん迷惑をかけられた弟に似ているという理由で、自分の息子である私の兄を嫌い、兄が大学を卒業してから統合失調症になると、さらに嫌い、一緒に食事をしなかった。

ところが、父に老いと病気の症状が見えだすと、愛人と父が信頼していた男は去ってしまった。膨大な会社の借金だけが残った。会社はその時、母が社長になっており、母が借金を背負う形になった。後に、父は10万人に一人の割合で発症するという難病だったことが分かったのだが、体が硬直していった。