父の知人は、一刻も早く病院の敷地から出たいようだった(写真提供:photo AC)

母の妹がトイレに行きたいと言い出したが、父の知人は「怖いから、駅のトイレに入ろう」と言って、一刻も早く病院の敷地から出たいようだった。

私は腹が立ったので、その人に言った。

「父の病気は遺伝とかが証明されていないのです。誰がなってもおかしくない。私がなるかもしれないし、あなたがなるかもしれない」

父の知人は顔をこわばらせ、「お父さんは好き勝手に生きたからバチが当たったのよ」と言った。母の妹は「誰だって病気になる。ひどいことを言わないで!」と、父の知人を叱りつけた。

父の病室に戻ると、患者の奥さんたちは、私に「とんでもない人が来たわね」と、母と私に同情してくれた。母は患者たちと妻たちに謝ったのだそうだ。

病院から帰る途中、私は「バチが当たった」と言われたことを母に告げた。

母は、「どんなに良いことをしても、病気になる。お父さんはバチが当たって病気になったわけではない。家族や他人から『あの人は悪いことをしたから病気になった』と思われるのがバチなのよ」と言った。

父は発病から6年で亡くなった。