「俺はもう、出ていく」

内心、「あれ?このあいだ言ったことは伝わっていなかったのか」と思い、でも角が立ってはいけないから、抑えながらも、「粗挽きもいいけど、赤いのが食べたいな」と前回よりは少し強めに言ったわけです。

すると妻は、「ああ、そうなんだぁ」と言って、その日は終わります。

20代前半の渡辺徹さん。「約束」のジャケット撮影にて(写真提供:文学座)

そして、また数日後、朝食にウインナーが出ているのを見ると、また粗挽きだったんです。

それを見たとき、「俺はもう、出ていく」と言って、席を立って、本当に出ていきました。

それが最初のケンカでした。

もう35年も前のことですから、どこに出ていったのか覚えていなかったのですが、女房が言うには、庭に出ただけだったようです。

まったく情けないことです。