数日後、玄関のチャイムが鳴ったので応対すると、日焼けした顔に艶のない髪で、冬眠前の熊のような太めの女性が立っていた。

彼女が「ヤマダ、ユウコ、ですぅ~」と名乗るや否や、夫が部屋から飛び出してきた。居間にいると、中学生もかくやというほどの弾んだ声がドアの隙間から漏れ聞こえる。玄関も冷え切った夕刻にようやく会話が途絶えた。

戻ってきた夫に、私は「遅かったわね。寒くなかったの」と声をかけた。すると夫は「やきもちをやいているのか?それとも盗み聞きか?」と見下した言葉を吐いた。絶句した。

この言葉は断じて許せない。脳裏にの三行半(みくだりはん)の三文字が浮かんだ。どうにも腹の虫が治まらず、2人の関係を知りたくなった。

時を経ずしてすべてを知る日がやってきた。とある午後電話が鳴り、名乗りもせずいきなり「いますかあ~」と締まりのない声が飛び込んできた。無礼千万、腹立たしい気持ちを抑えソファで寛いでいる夫に無言で受話器を突きつける。夫は二言三言話したあと、車のキーを掴むと転がるように家を出た。

家族でも承諾なしには互いの部屋に入らない暗黙のルールがあり、夫は日記などを机の上に整然と広げている。はしたない行為だが今回は例外。手荒く日記をめくって読み進む。

知り合ったのは定年の2年前。夏祭りの日にユウコから接近。夫は趣味のカメラを持ち歩き、その日も請われるままに撮影してあげたらしい。そして意気投合して今日に至る……。