柄本さんが早稲田の喫茶店モンシェリの二階で観た『どん底における民俗学的分析』は、1968年、鈴木忠志演出。白石加代子ほか、活気溢れる若者が精神科病院を舞台に展開する狂騒は、柄本青年を圧倒する。

――なんか歌謡曲がかかってね、こう、歌舞伎の六方みたいなの踏みながら客席から役者が登場するんですよ。いやもうそれがおかしくっておかしくってね。すごいエネルギーを感じた。

しかしよく恥ずかしくないものだと思ったけど、役者になってから思うには、恥ずかしくないと思ってる人は「ブー!」ですね。役者の場合、自分の身体全体をそこに置いて見せるわけだから、内心恥ずかしいと思ってないと、見てるほうはたまらない。さぁどうだ、ってやられたらどうします?

亡くなった(二代目中村)吉右衛門さんの『鬼平犯科帳』には二回ほど出していただいたけど、初めての時、僕と志村けんさんのお茶っぴき芸者のコントが面白い、って言ってくださって。

「僕は昔、白塗りにして芝居に出るのが恥ずかしくって嫌でたまらなかった」とおっしゃってましたね。いい役者でした。