柄本さんと勘三郎さんのコンビは新橋演舞場での「浅草パラダイス」シリーズ、映画『やじきた道中 てれすこ』など、息の合った共演が続く。

――そう、『浅草パラダイス』、爆発しましたね。ここで僕は本物の名優の子女二人にはさまれて。片や17代目勘三郎の息子、片や藤山寛美さんの娘の直美さんですからね。これが噂に聞くプロの役者というものかと、目が飛び出ましたからね。

直美さんは稽古場に何日か遅れて入ってきて、いきなり勘三郎さんと喧嘩する場面をやったんですよ。二人とも脚本なんか見ないしね。アドリブも入ったりして、まるで本番みたいなんですよ。怖くなっちゃってね。

それで直美さん、初対面の挨拶だけは丁寧だったけど、次からはもう、俺を見る目がこう、斜めですよ。こんな感じで、怖い怖い(笑)。

やっぱりありがたかったのは勘三郎さんが、僕に対してダメ出しなんかまったくしなかったですからね。それで楽屋も一緒にしてくれて、女方のベテランのお弟子さんを僕に付けてくれて。またそのお弟子さんが、怖い怖い。(笑)

 

『浅草パラダイス』は、97年から2001年まで毎年上演された。演舞場の勘三郎さんの広い楽屋の片隅に、所在なげに上眼遣いで正座している柄本さんを私は何度かお見かけした。

――そうそう、上眼遣い(笑)。僕は台詞覚えるのが遅いんですよ。でもプロのお二人は台詞を一字一句間違えない、とかじゃなくて、まず書かれていることを身体に入れて、すぐに二次元から三次元へ立ち上がらせるんですよね。これ、恐ろしいですよ。

でも勘三郎さんはプロでありながらアマチュアの部分も持っていて、面白いものに対するアンテナの張り方がほかの役者とは違うんです。誰も気がつかないような隅っこにうずくまってるようなのを、「ちょっとあんたおいでよ」と呼んでくれた、みたいなことじゃないのかな。

ありがたいことに彼は俺に一度も怒らなかったし、待っててくれたんですね。それで褒めてくれたのが、「柄本さんは僕の目ぇ見て芝居してくれるからいいよ」って。