高嶺すみれ、長之助草、うるっぷ草

タカネスミレ(提供:photoAC)

●高嶺すみれ

高嶺すみれはこまくさと同じように砂礫地に生育している。すみれとは言うけれども種類も異なり、ふつうのすみれは紫であるがこれは色が黄色で、きばなのこまのつめに似てそれよりも葉が厚くできているからすぐ区別することができる。

ヨーロッパ諸国にはなく日本特有のものである。最も多く産するのは陸中の岩手山の頂上の砂礫地である。

●長之助草の由来

長之助草というのは八ヶ岳に多く立山(越中)にも産する。これは地平に拡がり葉の裏が白く鋸歯があり楢の木の葉を少し小さくしたようなもので葉の表面には皺があり、七月頃になると拡がり、中から茎が出て花弁が八つ中から咲く。

それが満開の時にはたいへん綺麗である。この草はヨーロッパに多い。

日本では陸中の須川長之助という人が明治の初年にマキシモウィッチというロシア人に雇われて採集した時立山で取ったのであるが、それを私どもが研究して長之助草と付けてやった。

これらも高山植物として珍しいものである。

●うるっぷ草

これは千島のうるっぷ島に多く産するところからこの名がある。

内地でも諸処の高山にある。葉はおおばこに似ていて茎が数本出て、色は紫で見たところ特異であるからすぐ分かる。

内地では八ヶ岳にたくさんあり、登山した人々の見逃してはならぬものである。

『随筆草木志』(著:牧野 富太郎/中公文庫)