推しのためなら死んでもいい

貧乏フリーターでも、万年ジャージでも、舞菜のために生きることを決めた彼女は幸せそうだ。そんなえりぴよの多幸感を象徴するのが、「舞菜が武道館いってくれたら死んでもいい」という一言である。

『女子マンガに答えがある――「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(著:トミヤマ ユキコ/中央公論新社)

推しのためだったら死んでもいいと思えるのは、「ハマる女」として実に幸福なことだ。正しさや安定を求める真面目で堅実な人たちは、このアイドルオタクの人生を決して認めないだろう。

そういう人たちから見たら、えりぴよは「死んでもいい」とか言ってる場合ではなく、社会的にはすでに瀕死の状態であり、相当にヤバい。しかし、そのヤバさになにか熱いものを感じるのもまた事実だ。

この作品は、推しへの愛を燃料にして先の見えない日本社会を生き抜こうとする若年貧困層のサバイバル物語として読むことができる。

会社員になって寝る間も惜しんで働いたところでどうせ薄給なのであれば、フリーターになってアイドルと握手する方がよほど幸せだという訴えを、わたしたちはオタクの戯(ざ)れ言(ごと)と茶化さないで、ちゃんと受け止めた方がいい。

世間のものさしに合わせて生きても思わぬ落とし穴があるのが人生なら、最初からルートを外れたって同じこと。そんな開き直りの精神が、えりぴよを支えている。その生きざまは、もはやパンク。読者としては、ハマる女のカッコよさにただただしびれるばかりだ。