何かにハマっている人は強い
マニアックな趣味を持つ女はモテないとか、そもそもその趣味は交際相手の影響に違いないとかいった風評被害を防ぐため、ハマる女たちは擬態する。ふつうの、なんでもない、無害な女子であるように見せかける。そうすれば、誰にも邪魔されることなくハマる女でいられるから。
女にとっていかに生きづらい世の中かと思うと悲しくなるが、『トクサツガガガ』にわずかながら救いがあるとすれば、仲村がオタバレ防止のための諸活動を、一種のミッションとして前向きに捉えていることだ。「(特撮から)得るモノに比べたら…/隠していく苦痛なんてなんてことない…」と語る仲村は、特撮ヒーローたちが数々の困難を乗り越えていくのと同じノリで、数々のオタバレ危機を乗り越えていく。
彼女のガッツは、間違いなく特撮ヒーローたちが培ってくれたものだ。何かにハマっている人は、なんだかんだ言って強い。それは、ハマっている対象をただ消費するだけじゃなくて、そこから生きる力をもらっているからだ。
心身を支える柱が人より多いと、壊れたり倒れたりしないのは、自明の理。人生100年時代を健やかに過ごすためにも、推しや沼の存在は大事にした方がよさそうだ。
※本稿は、『女子マンガに答えがある――「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『女子マンガに答えがある――「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(著:トミヤマ ユキコ/中央公論新社)
もう「少女」を名乗れない私たちの、人生の答えはマンガにある! 不朽の名作から今が旬のマンガまで、幅広い作品中での女性たちの描かれ方を縦横無尽に語り、現代女性の欲望と生き方を探る。「おもしろい女」「たくましい女」「ハマる女」「嫌な女」……あなたに似た女が、マンガの中にはきっといる。