「貧乏フリーターでも、万年ジャージでも、舞菜のために生きることを決めた彼女は幸せそうだ」(提供:photoAC)
大人の女性をメインターゲットにした「女子マンガ」。マンガ研究者のトミヤマユキコさんいわく、「恋愛だけではなく女の人生の大変さなども描かれるなかで、現代女子が生きていくためのヒントを見出せることも特徴の一つ」とのこと。近年話題の「推し活」に焦点を当てた女子マンガでは、何かを犠牲にしても「推し」のために生きる現代女子の心理や強さが分かるそうで――。

生活を捧げて推し活を続ける主人公

女子マンガ界はいまや「ハマる女」の宝庫であるが、平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』の主人公「えりぴよ」もそのひとり。彼女は地下アイドルオタクで、岡山県で活動する「ChamJam」というグループの人気最下位メンバー「舞菜」を応援している。

地方都市の地下アイドルという時点でかなりマニアックだが、その中でも一番目立たないメンバーを推そうというのだから、そのオタクぶりには頭が下がる。ちなみに、さきほど舞菜のことを「最下位」と書いたが、物語のスタート時点では、最下位もなにも、えりぴよしかファンがいないのである。

そのうえ舞菜がとんでもない引っ込み思案なので、えりぴよは舞菜に塩対応を食らっていると思い込んでいる。それでもファンをやめない(どころかますます熱くなる)えりぴよってば、心臓が強すぎる。

ライブ中に鼻血を出してぶっ倒れても「舞菜は私がいなくても何も思わないだろうけど/私の人生には舞菜の1分1秒が必要なんです!!」とか叫んでるし(鼻にティッシュを詰めたまま)。

そんなえりぴよは、オタ活に支障が出ぬよう、会社員にはならず、フリーターとして生計を立てている。収入をオタ活に全振りしているせいで、着る服は高校時代の指定ジャージしかない。

それまで持っていた「まともな服」を売ってCD代に充てたと語っていることから、ChamJam にハマる以前は、ファッションを楽しむこともあったようだが、いまは赤ジャージだけでがんばっている。

『推しが武道館いってくれたら死ぬ(1)』(著:平尾アウリ/徳間書店)