勝手知ったる町の力に助けられ
企画の段階から僕をモチーフにすると聞いてはいたものの、監督から台本をいただいたとき、「この役は等身大の自分だ」と痛感しました。定時制高校の教頭を務めている主人公の末永周平は、職業こそ違いますが、なにごとに対しても無理や冒険をしない性格が“もろ僕”で。おまけに、僕が生まれ育った町が舞台で、セリフも地元の言葉です。自分のことをすべて見透かされている町で演技をするのが本当に気恥ずかしくて、ロケ中はずっとそんな感覚が続いていました。
ただ、気恥ずかしい思いもありましたけど、勝手知ったる町に助けてもらえたと言いますか。地場って言うのでしょうか。この役を演じる上で、土地の力がものすごく僕を助けてくれたような気がします。そのおかげか、12年ぶりの主演映画とはいえ、とくに気負うこともありませんでした。
もともと、僕はどこの現場に行くのもまったく同じスタンスなんですよ。スーパーマンの役なら、それなりに気合を入れていく必要もあるんでしょうけど、そんな役、僕には絶対来ませんからね(笑)。今回も、その辺の町角にいる男にたまたま焦点を当てたような話ですし、そんな“普通の男”を演じるのが僕という役者だと思っているので、撮影にはいつもと変わらない姿勢で臨んでいました。
その中で、ひとつだけ注意したのが歩くシーンです。町中を歩く、歩いて通勤する、校庭を歩くと、今回の映画は歩くシーンがとても多かった。俳優にとって「自然に歩いてください」と言われるのが、実は一番難しいんですよ。どうしても何か目的を持っているようなそぶりで歩いたり、そのときの感情を込めて歩いてしまう。あるいは、次のシーンの前振りとして歩くとか。でも、余計な思いはいっさい込めずに自然体で歩きたかった。きちんとできているかどうか自分ではわかりませんが、それが今回の役を演じる上で一番気をつけていたことでした。