数々のドラマや映画で、「その姿を見ない作品はない」というくらい、幅広い役柄で活躍を続けている光石研さん。現在オンエア中のドラマにも多数出演している。『だが、情熱はある』では愛情表現が苦手な父親役を、『帰ってきたぞよ!コタローは1人暮らし』では法律事務所の所長、『弁護士ソドム』では親代わりとして主人公を見守り続ける恩人役として、まさに「名バイプレイヤー」と呼ぶにふさわしい活躍ぶりだ。そんな光石さんが12年ぶりに主演する映画『逃げきれた夢』は新鋭・二ノ宮隆太郎監督が光石さん自身をモチーフに描いた作品。光石さんの故郷である福岡県・北九州市を舞台に、これまでの人生を見つめ直す初老の男の数日間を淡々と描いていく。「自分自身と重なる役」という光石さんに、この作品に対する思い、そして、16歳のときから俳優一筋で生きてきたこれまでの人生を振り返っていただいた。(構成◎内山靖子)

勝手知ったる町の力に助けられ

企画の段階から僕をモチーフにすると聞いてはいたものの、監督から台本をいただいたとき、「この役は等身大の自分だ」と痛感しました。定時制高校の教頭を務めている主人公の末永周平は、職業こそ違いますが、なにごとに対しても無理や冒険をしない性格が“もろ僕”で。おまけに、僕が生まれ育った町が舞台で、セリフも地元の言葉です。自分のことをすべて見透かされている町で演技をするのが本当に気恥ずかしくて、ロケ中はずっとそんな感覚が続いていました。

ただ、気恥ずかしい思いもありましたけど、勝手知ったる町に助けてもらえたと言いますか。地場って言うのでしょうか。この役を演じる上で、土地の力がものすごく僕を助けてくれたような気がします。そのおかげか、12年ぶりの主演映画とはいえ、とくに気負うこともありませんでした。

もともと、僕はどこの現場に行くのもまったく同じスタンスなんですよ。スーパーマンの役なら、それなりに気合を入れていく必要もあるんでしょうけど、そんな役、僕には絶対来ませんからね(笑)。今回も、その辺の町角にいる男にたまたま焦点を当てたような話ですし、そんな“普通の男”を演じるのが僕という役者だと思っているので、撮影にはいつもと変わらない姿勢で臨んでいました。

実際に親しい間柄の光石さんと松重さんは、作品の中でも親友役で共演。飲んだ後に歩きながら話すシーンも自然だ ©2022『逃げきれた夢』フィルムパートナーズ

その中で、ひとつだけ注意したのが歩くシーンです。町中を歩く、歩いて通勤する、校庭を歩くと、今回の映画は歩くシーンがとても多かった。俳優にとって「自然に歩いてください」と言われるのが、実は一番難しいんですよ。どうしても何か目的を持っているようなそぶりで歩いたり、そのときの感情を込めて歩いてしまう。あるいは、次のシーンの前振りとして歩くとか。でも、余計な思いはいっさい込めずに自然体で歩きたかった。きちんとできているかどうか自分ではわかりませんが、それが今回の役を演じる上で一番気をつけていたことでした。