“根回し”の技術に市場価値はない

それは、単に長時間労働をはじめとするブラック職場が問題なのではなく、政と官の関係の変化、とりわけ政治主導―官邸主導と言ってもいい―の流れが、大いに影響しているのではないか。

本来、官僚は政治に対する選択肢の提供者であり、その立場は変わっていないものの、政治主導にさらなる拍車がかかるなか、選択肢の提供者の存在意義さえ失われつつあるように感じられる。

将来を背負って立つ人材の獲得・育成を急がなければ、官の劣化を食い止めるのは不可能になるだろう(写真提供:Photo AC)

官に求められる資質は"根回し"に限られ、「政治と行政のインターフェースを回す、この非合理極まりない世界にほとほと愛想が尽きた」と、若くして離職の道を選んだキャリアの1人は吐き捨てるように語っている。

いかに根回しに長じたとはいえ、政官関係の中だけの話であり、一旦官界を離れれば根回しの技術にほとんど市場価値はない。

財務省主計局が長かった元幹部が「予算の査定が得意ですと言っても、民間企業で評価してくれるところはないね」と自嘲気味に語るのを聞いたことがあるが、一面の真理を突いている。

「役人を長くやっても専門性が身につかない」という不満は若手の間に根強く、根回し中心にゼネラリストとして育てられる官の仕組みに、疑問を抱く人たちが増えているのは間違いない。