鉢を傾けたり向きを変えることで、枝が伸びる方向を誘導。すると木は自力で枝を曲げていく。じっくり育てながらその木の持つ個性を見極めて、どの枝を切るかを決める。そうした作業を何度も繰り返し、場合によっては何十年もかけて育てていく。
現在主流となっている「早く太く育てて、針金を巻いて枝を曲げる」手法とは、一線を画す。
「針金を巻くと、どうしても幹に針金の痕がつく。私はあれがいやでねぇ。植物本来の力を利用して、なるべく自然で、細くて洒落た枝をつくりたいんです」
そのほかにも、直根は切らない、ぐーんと伸びる徒長枝(とちょうし)はすぐには切らないなど、一般的な盆栽のつくり方とはかなり手法が異なる。
交換会(競り)などで手に入れた苗を自分流に世話し、ようやく思い通りの形に育ち始めるのに最低でも3年から5年。結果が出るには、かなり時間がかかる。
ましてや、種から育てるとなると、気が遠くなるほどの歳月が必要だが、山本さんはこの方法もいとわない。種をまいたらなるべく小さな鉢から育て始めるのが山本さん流で、鉢の直径はわずか4cm程度。小さい鉢のまま育てて、毎年少しずつ枝ぶりをつくっていく。
「今73歳ですけど、30代のときに種をまいた赤松が、ようやく樹高15cm程度になりました」
これだけ時間をかけて、はたして商売としてやっていけるのだろうか。失礼を承知で伺うと、「まぁ、夫の働きもありましたし」と笑う。