小ぶりながら成熟した趣の紅葉。鉢の中に、 大自然の風景が映し出されているようだ

 

そんなとき、その木が本来持っている個性を引き出す「自然盆栽」を手掛ける人に出会い、衝撃を受けて弟子入り。10年間、その人のもとで学んだ。そして1983年に松山園四代目園主に。たおやかで自然な盆栽を追求し続けてきた。

結婚したのは28歳のとき。夫とは、公民館活動の山の会で出会った。夫は農家の息子だったが、宮大工に弟子入りし、やがて独立。山歩きが共通の趣味で、夫婦で山に登り、頂上でコーヒーを淹れて楽しむことも。2人の娘に恵まれてからは、家族でイワナ釣りや山菜摘みなど、自然の中で過ごす時間を大切にした。

子育てで忙しい頃は、子どもをおんぶしながら種まきをし、交換会の会場では赤ん坊を籠に入れておくこともあった。あまりにも目まぐるしかったので、40歳までの記憶がほとんどないそうだ。

子どもの手が離れ、10年前に夫を見送ってからは、ラジオの深夜放送を聞きながら作業をすることも。

「気づいたら3時、4時。盆栽の仕事が好きかと聞かれたら、よくわからないけれど、ずーっとやっていられるのは確か。だって『もう植え替えしてくれよ』とか、『もうちょっと水くれないと枝を枯らすよ』とか、木が騒いでうるさいんだもの。ほっとけないじゃない。手をかけると、ちゃんとそれに応えてくれるのが楽しい」

手をかけた鉢を手放すときは一抹の寂しさもあるが、「商売だから欲しいと言われたら売らないわけにはいかない」。そこがジレンマだという。

後編につづく

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松山園
<松山園>
長野県須坂市幸高町屋敷添438-1
営業時間 10:00~18:00(月曜、水曜休)