(撮影=福森クニヒロ)
いにしえから続く「日本髪」の伝統を継承している女性がいます。京都にある老舗美容室の3代目・南登美子さん、94歳。神事の髪型や衣装なども手がける髪結いの仕事についてうかがいました(構成=今津朋子 撮影=福森クニヒロ)

日本で唯一の有職美容師

京都・祇園、八坂神社のほど近くに小さな美容室がある。大きな看板はなく、普通の民家と見まがうような店に入ると、鏡の前に昔ながらの椅子、パーマ機が並ぶ。木製の古い道具入れの上には、の櫛、髪油が置かれ、顧客が来るのを待っている。

「ようこそ、おこしやした」

柔らかな笑顔で出迎えてくれたのが、「ミナミ美容室」の3代目主人、南登美子さん(94歳)。祖母の代から135年続く美容室を経営するかたわら、日本で唯一の有職美容師として日本古来の髪型を結ってきた。その仕事は、日本の歴史上の髪型をすべて頭に入れ、各時代の装束、結髪や着付け、化粧に関する知識と技術をもって再現することにあるのだという。

「昔は写真や動画もなく、自分の記憶と先代が遺してくれた髪型の資料だけが頼りでした。この木製の道具入れは母が使っていたもの。櫛など職人さんの作ってくれた道具はずっと大事に使っています」

愛用の柘植の櫛は京都・四条の「十三や」の品。母・ちゑさんから受け継いだものは長年使って飴色になっている(撮影=福森クニヒロ)