手にしているのは、自然な趣の真柏(ミヤマビャクシン)の小品盆栽。後ろの大きな鉢は、祖父の代から伝わる真柏(撮影:本社・奥西義和)
明治から続く盆栽園をひとりできりもりする山本千城子さん。日本盆栽協同組合で、女性唯一の盆栽技能保持者でもある。73歳の山本さんが語る奥深さは──(取材・文:篠藤ゆり 撮影:本社・奥西義和)

太陽の力を借りて枝ぶりをつくる

今やBONSAIとして海外でも愛好家の多い盆栽。一般的に盆栽は、「針金を巻いて樹形をつくる」と思っている人も多いのではないだろうか。その〈常識〉をくつがえす盆栽師がいると聞いて、訪ねることに。

明治10年代創業の松山園(しょうざんえん)四代目園主、山本千城子(ちやこ)さん。日本盆栽協同組合が認定する全国に41人しかいない盆栽技能保持者の1人で、女性で認定を受けているのは山本さんだけだ。

松山園がある長野県須坂(すざか)市は、山に囲まれたのどかな田園地区。北には妙高山や黒姫山、西や南には日本アルプスがそびえている。松山園の門を入ると、中にずらりと鉢が並んでいる。道路を挟んで向かい側のスペースと合わせて、管理している鉢の数は1000以上。真柏(しんぱく)、赤松などの緑の間に、桜やエゾムラサキツツジが可憐な花を咲かせている。

松山園の盆栽は、小型でも成熟した趣があり、自然な風情がある。たとえば赤松。「盆栽の松の幹は、太くて急カーブを描いている」と思っていたが、松山園の松は枝ぶりが繊細でナチュラルだ。いったいどうやって、この枝ぶりを作るのだろう。

「植物は太陽に向かって伸びていこうとするので、太陽の力を利用するんです」と山本さん。