あふれるサンデーサイレンスの血
振り返れば、サンデーサイレンスの産駒は1994年にデビューしました。
16歳で死んだサンデーサイレンス、17歳で死んだディープインパクト。
しかし、Mr. Prospectorのように、彼らが30歳近くまで種付を継続していたならば、日本の生産界は果たしてどうなっていたでしょう。その顛末を具体的に想像した者はどれだけいたでしょうか。
サンデーサイレンスは日本競馬史において類を見ない種牡馬であり、さらにディープインパクトを中心とする後継種牡馬により、日本の生産界における遺伝子プールは非常にいびつになっていることに疑う余地はありません。
「悲劇」などと言って不安を煽ってしまいましたが、杞憂に終わればそれにこしたことはありません。
けれども、実際に悲劇が開演し、それがクライマックスに達してしまうと、もうあとには戻れないのです。
人気種牡馬の年間種付頭数は200頭以上が当たり前となって、生産馬全体における遺伝子構成の偏りがますます助長される状況下、その悲劇の脚本たる「遺伝的多様性の低下およびその影響のメカニズム」だけは競馬関係者、特に生産者の方々にはしっかりと認識していただきたいのです。
私の中では悲劇の始まりを予感するいくつかの胸騒ぎがありました。例えば、2011年のオルフェーヴルが勝った日本ダービー。
出走馬18頭はすべてサンデーサイレンスの孫でした。これこそ日本産馬における遺伝子構成の極度の偏りの始まりの合図です。
※本稿は、『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』(星海社)の一部を再編集したものです。
『競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門』(著:堀田茂/星海社)
本書は、生物学・遺伝学的観点から説明する競走馬の血統入門書です。「遺伝子」や「ミトコンドリア」「メンデルの法則」といった中学校の理科の授業で習った基礎から最新の研究論文まで、一緒に血統と遺伝を学びましょう。