獣医師である堀田さん「今日の競馬サークルにおけるリスク感覚の稀薄化を切に感じる」と言いますが――(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
競走馬の血統は、競馬の重要なファクターの1つです。しかし現状では、血統に関する各種言説に、生物学の基本から逸脱しているものが多々見受けられます。「『血統』と『遺伝』は表裏一体です。」と語るのは、獣医師で、サラブレッドの血統を生物学・遺伝学的観点から探究している堀田茂さん。その堀田さん「今日の競馬サークルにおけるリスク感覚の稀薄化を切に感じる」と言いますが――。

Galileoの血に埋没する欧州

昨年(2022年)の凱旋門賞。日本調教馬を除く出走馬16頭のGalileoの血の持ち具合を調べてみたところ、Galileoの孫は10頭でした。

さらに、Galileoの父はSadler’s Wellsであり、その曽孫(ひまご)まで目を向けてみると14頭にのぼりました。

昨年末の時点でGalileoを父に持つGⅠ勝馬は97頭にものぼります。

2019年の英ダービーを勝ったAnthony Van Dyckも、同年の仏ダービー(ジョッケクルブ賞)および翌年の凱旋門賞を勝ったSottsassも、異父きょうだい(半姉)にGI馬がいます。

あらためてですが、Anthony Van Dyckは父がGalileo、Sottsassは母の父がGalileoです。

体内のエネルギー産出工場であるミトコンドリアの遺伝子は母親からのみ授かるので(=母性遺伝)、私は母系は重要である旨の仮説を掲げていますが、そこに記したように、種牡馬の質にとらわれずに複数のGI馬を産む繁殖牝馬を擁する母系は非常に貴重です。

けれども、結果論ではあるものの、そんな血筋にこのようにGalileoの血が当然のごとく入り込み、遺伝的多様性低下の袋小路に誘導されてしまっていることはいかがなものかとも思ってしまうのです。