●ピカソの言葉
盗むものがあれば、わたしが盗む。
できる限り「盗む」
過去や現代の画家たちからインスピレーションを得て、それを自分の作品に活かすことをピカソは「盗む」と言いました。
「相手の許可を得ないで自分のなかに取りこむ」という意味で言えば「盗む」で間違いではないのですが、あえてこういう悪ぶった言葉を使うのはピカソの好みです。
十代の半ば、スペイン最高の美術学校に入りますが、授業は退屈でした。「教師たちは勘違いをしてわたしに絵を教えるつもりでいる」と友人に書き送っています。
学校では学ぶものがないのでプラド美術館に通いつめます。そこでゴヤ、ベラスケス、エル・グレコらスペインの巨匠たちの絵画を食い入るように見つめて、彼らを取り入れた……ピカソが好んだ表現を使えば、彼らを「盗んだ」のです。
ピカソに強い影響を受けた芸術家の池田満寿夫は言っています。
「すべての創造は模倣から出発する。そして創造が真の意味の創造であるためには、その創造のための模倣が、創造的模倣でなければならない。もっと簡単に説明すれば、芸術家の盗み方に創造の秘訣、あるいは独創性が隠されているのである」
「ピカソの作品のなかには美術の歴史すべてがある」という評価があります。
できる限り多様なものを、できる限り大量に「盗んだ」のです。
※本稿は、『ピカソの言葉――勝つためでなく、負けないために闘う』(大和書房)の一部を再編集したものです。
『ピカソの言葉――勝つためでなく、負けないために闘う』(著:山口路子/大和書房)
破壊と創造の画家ピカソの言葉とその軌跡 20世紀最大の画家ピカソ。
若くして成功し、91歳で亡くなる直前まで「呼吸をするように」描き続けた。
その軌跡を言葉と共にたどる