「ファッションというのは、いつも前だけを見て走る仕事。ですから、めったに自分の作品を振り返ることはありませんでした」(撮影=本社写真部)
2022年8月11日、ファッションデザイナーとして活躍してきた森英恵さんが亡くなられました。享年96。故・美空ひばりさんのコンサートの衣装やバルセロナ五輪日本選手団のユニフォームをはじめ、皇太子妃雅子さま(当時)のご成婚時のローブデコルテなどを手掛けられました。追悼の意を表し、創作の原点や孫の森泉さんのことなどを語った『婦人公論』2015年9月22日号の記事を配信します。


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日本ファッション界のパイオニアとして海外への道を切り拓いてきた森英恵さん。89歳になった今も、現役で活躍中です。その尽きることのないアイディアと、ものづくりへの意欲は、どこから湧いてくるのでしょう。(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部)

いつも前だけを見て走ってきた

今もほとんど毎日、オフィスに足を運んでいます。長い間、働き続けてきたから、執筆なども含めて仕事が多岐に広がってしまって。もちろん、デザインの仕事も続けています。

昨年は、花柳壽輔さんが構成・演出をなさった『日本舞踊×オーケストラ vol.2』という舞台で、女優の麻実れいさんの衣装を手がけました。また、衣装を担当してきた佐藤しのぶさん主演のオペラ『夕鶴』が来年再演される予定なので、衣装に手を入れなくてはいけません。毎日、忙しくしています。

今年4月から6月まで、島根県立石見美術館で「森英恵 仕事とスタイル」という展覧会が開催されました。キュレーターの方々が、今までの作品をたくさん集めてくださって。オートクチュールをはじめ、ユニフォーム、オペラや劇団四季の衣装など、100点ほどが並ぶ大きな展覧会でした。

ファッションというのは、いつも前だけを見て走る仕事。ですから、めったに自分の作品を振り返ることはありませんでした。でも、美術館で改めてこれまでの仕事を目にしたときは、「へぇ、私はこんなことをやったのねぇ」と、感慨深かったですね。