「冗談じゃない。日本のことを、こんなふうに思われたままで終わらせたくない。《創る》側の人間として、日本独特の美を西洋に伝えるのが自分の役割かもしれない。そんな闘志が湧いてきました。」

悔しさをバネに、アメリカ進出を決意

またこのとき、日本という国が知られていないことにも愕然としたのです。サロンのマダムは、「日本というのは一年中、太陽の光がいっぱい降り注いで暑いんですってね」などと言います。日本には四季があることを話しました。

同じ年の夏、アメリカのファッションも見ようと考え、ニューヨークを訪れることに。メトロポリタン歌劇場で上演されていたオペラ『マダム・バタフライ』を見て、またもや衝撃を受けました。なんと、蝶々夫人は下駄を履いて畳の上を歩くのです。まったく日本を理解していない演出に、むらむらと憤りを感じて。

しかも百貨店に行くと、地階にメイド・イン・ジャパンのタグがついた粗悪なブラウスが売られている。たぶんアメリカのバイヤーが日本でつくらせたのでしょう。《1$ブラウス》と呼ばれる安物が日本製品のイメージ。日本人としてプライドがひどく傷つけられました。

なんと情けない現実なのだろう。日本は戦争には負けたけれど、すばらしい文化も伝統もあるし、美意識が高く丁寧なものづくりが得意な国ではないか。その悔しさが、エネルギーとなったのです。

冗談じゃない。日本のことを、こんなふうに思われたままで終わらせたくない。「創る」側の人間として、日本独特の美を西洋に伝えるのが自分の役割かもしれない。そんな闘志が湧いてきました。仕事をやめる気で海外に出かけたのに、悔しさのおかげで、再びエンジンがかかったのです。