本音か、関係性か 大切なのはどっち?

この社会性とはいったい何なのか。

これこそが、私にとっては最も関心の高いテーマであるのですが、社会性とは、自己だけでなく、数多くの他者と協働した形で適応的な生存戦略を目指すということだろうと思います。

中野先生「もっといえば、本音そのものでさえ、変化していくこともあるのです」(撮影:尾関祐治さん/写真提供:日経BP)

その戦略が最も発達しているのは、やはり、多くの人が集(つど)い、行き来し、定住した古い都の地域ということになろうかと思います。

もちろん自分の本音は自分の中で大事にするけれども、それ以上に人間関係はもっと重要だということを理解して行動している人たちのコミュニティがそこにあるわけですよね。

世界的にも、古い都の地域で、京都に似たコミュニケーションがとられるという、たとえばフィレンツェのような都市が知られています。

これに対して江戸というのは比較的新しい都です。400年ほどの歴史がありますが、そのあとも、スクラップ・アンド・ビルドで、いろいろな人が流入し、サイズも非常に大きいので、実は人間同士のやり取りとしてはあまり密でないことも多い、そういった特徴のある地域です。

とはいえ濃淡はあり、同じ東京に住んでいても、たとえば世田谷区と江東区ではずいぶん違います。

まあ同じ地域かといわれると、東京という名前だけは同じでも、地元に住んでいる人同士ではあまりそうは思えないのではないでしょうか。

そんな中で下町地域であれば人間関係を重視するという観点から醸成されてきたものの片鱗(へんりん)が残っていますけれども、京都のコミュニケーションの洗練の度合いとはもう比べものになりません。