絵本を読むことで人の立場が想像できる大人になる

磯崎 さて、最近出版された絵本の中から気になる絵本を持ってきたので、少しご紹介をさせてください。一冊目は『がっこうに まにあわない』(ザ・キャビンカンパニー ・作 あかね書房)です。始まりは、7時47分。このままだと学校に間にあわない。でも今日は絶対に遅れちゃいけない訳がある。ところが、走れば走るほど、いつもの道がゆがんだり、水たまりのワニや大きな犬に邪魔されたり、焦れば焦るほど、その道のりが永遠に続くかと思うほど長く感じて……。読めば、あっという間に夢中にさせられてしまいますし、息子を見ているようでもあるし、自分の子ども時代の感覚もよみがえってくる。とても心が刺激される絵本です。

もう一冊は、『夜をあるく』(マリー・ドルレアン・作 よしいかずみ・訳 BL出版)という美しい絵本です。真夜中にお父さんとお母さんに起こされて、家族4人で玄関を出る。やがて到着したのは山のふもと。静かな森の中を家族4人ですすんでいくと、だんだん感覚が研ぎ澄まされてきて、何もかもがしっかり見えてきて、音やにおいにまで敏感になってくる。実際にはこんな体験をしたことがなかったとしても、まるで絵本の中で一緒に冒険をしているような気持ちにさせてくれる絵本です。記憶がよみがえってくる絵本と、初めての体験ができる絵本、対照的な二冊でもありますよね。

山口 どちらの絵本も面白そうです。

磯崎 絵本ナビ』では、いろいろな絵本を紹介しているんですが、タブレット上で絵本が読めるサービスもあります。そんな中でデジタルと紙の違いということをよく考えます。まず、紙の絵本は一冊という形になっていますよね。始めに表紙があり、自分のペースで読めて、どのページにもすぐ戻れる。そして大事なのが、最後まで来たら、「はい、おしまい」となること。つまり、始まりがあって終わりがあるんです。

一方でデジタルや動画はずっと続いていく感覚があるなあと。それはそれですごく情報量も多かったり、脳の違う部分が刺激されたり、良いところもたくさんあると思うんです。なんといっても出会いの機会が増えますよね。でもやっぱり、一冊の本の意味というのは「始めがあって終わりがある」ということ。これは意外と気付かなかったんですが、今は“おしまい”という認識がない子がけっこういるという話を聞いた時に、インターネットでは終わりを認識しづらい面が確かにあるなと感じました。

山口 そう言われてみれば、確かにデジタルだとずっと読んでしまいますね。終わっても次のものが出てくる。

磯崎 そうですよね。この「始まりと終わりがある」っていうこともそうですし、絵本の良さっていうのは、まだ字が読めない子でも楽しめるところが、一番のポイントです。その雰囲気や展開が言葉にはなっていなくても、絵に描かれている部分を子どもたちはちゃんと読み取っていきます。そういう余白を読み取っていくことが読解力の土台になるのかなと。このことは、いろんな人の立場を想像することにもつながっていく。そういったところも、絵本の面白さなんじゃないかなと思っています。

山口 今日は絵本についていろいろとお話しできて良かったです。ありがとうございました。

磯崎 こちらこそ、ありがとうございました。

(撮影◎本社・奥西義和)