森林にとって必要な火事

さらに、火事によって大気中に放出された二酸化炭素は温暖化を促進し、エアロゾルで健康被害をもたらし、さまざまなところに社会・経済的なダメージを与える。

火災はこうして森林の営みを大きく攪乱するが、一方で、火事の頻度と強さが植生の構造を決めている場合もある。すなわち、自然に発火する火事は、文字通り自然なイベントであり、生態系の動態と緊密な関係を持った環境要因でもある。

こうしたことを考慮に入れず、火入れの制限や防火に伴った森林の利用規制で火災を起こりにくくするだけでは、火事に依存していた動植物が被害を受けることになる。我々の生活には防火や消火の備えは欠かせないが、自然生態系に対しては、火事の取り扱いとその対応は慎重にしなければならない。

大規模火災が起こったカリフォルニアは、メキシコまで広がる乾燥地である。落雷などによる火事の直後、種子で繁殖する一年生植物や短命な低木が生育をはじめる。その後、より寿命の長い樹木が侵入する。

さらに火事が起こらなければ乾燥に強く長命な常緑広葉樹が出現し、樹高1〜3メートルのマツやカシが混生する硬葉低木林になる。火事の発生が30年から50年ほどの周期であればこの低木林が維持される。

ただし、ここでは高温乾燥の夏と秋から冬の乾熱風によって不規則な間隔で火事が起こる。火事が短い周期で繰り返すと、遷移の途中で元の焼け跡に戻るので、硬葉低木林まで発達しない。

数年程度の短い周期で火事が繰り返されると、イネ科植物が優占する草原になる。カリフォルニアは、それら遷移段階の異なるさまざまな自然植生がモザイク状に分布する地域なのだ。