「幸福な離婚」という観点から考えるならば

離婚に至るには少なくとも今後五年程度の別居期間が必要になると考えられます。

妻が、自分を捨てて別の女性に走った夫を罰したいと思えば、離婚を拒否し続け、婚姻費用を取るなどの方法によって二人を経済的に追い詰めることができます。

婚姻費用とともに自分が借りたマンション代を払い、パートナーの生活を援助していくことはかなりの負担であり、とりわけ夫が退職したのちは、そうした経済的出費を維持することは容易ではないかもしれません。

妻は、婚姻費用などを課し続けることによって、二人の関係を破滅させることができるかもしれません。他方で、そうした困難な状況に直面することによって二人の愛情をより強固なものに変化させ、二人を結束させて難関に耐えさせていくことになるかもしれません。しかし、いずれの場合であっても、夫が再び妻のもとへ帰ってくることはないことだけは確かだと考えられます。

双方にとって「幸福な離婚」という観点から考えるならば、妻は、夫婦関係が破綻してしまっており、修復不可能なことを冷静に認識し、決断までしばらくの期間は要するかもしれませんが、離婚を容認し、人生の最後の段階で、ともに過ごしてきた長い年月について後味の悪い思いをしなくてすむようにしたほうがよいように思われます。

※本稿は、『幸福な離婚』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


幸福な離婚-家庭裁判所の調停現場から』(著:鮎川潤/中央公論新社)

現在の日本では、結婚した夫婦の約3組に1組が離婚する。また、毎年結婚するカップルの約4組に1組が、夫婦のいずれかが再婚である。結婚と離婚は切り離せない時代となった。そこで、離婚となった場合、家族メンバーの幸福が最大限満たされるよう、図っていく必要がある。著者は長年、少年非行をメインに研究してきた。重大な少年犯罪は機能不全に陥った家族との関係が切り離せない。その一環として、家族問題に関心を持ち、みずから10年以上にわたり家庭裁判所の家事調停委員を務めてきた。これまでに、離婚を中心として200件以上の家事事件の調停を担当。家事事件の最前線において、当事者に寄り添いながら解決を図ってきた。本書では、著者の家事調停委員としての経験をもとに、現場での具体的な事例(ケース)を引きながら、幸福な離婚に至る可能性を探ってゆく。離婚への備え、必要な知識が得られるようケースを選択し、子どもを含む家族メンバーの幸福を最大化する解を提示する。離婚について考え、備えるための最良の手引き。