どこからも守られない人たち

小林 実は、私も海外で強制送還されたことが2度ほどあるんですよ。

中島 え、どういうことですか?

小林 私はワーキングホリデービザでニュージーランド留学と、マレーシアのホテルで働いていた経験があります。ニュージーランドの時は自分のミスで、マレーシアでは会社側の手続き不備が原因でまったく不本意ながら不法労働、不法滞在になって。

泣きながら日本に帰ったり、あやうく収容されそうなところをからくも逃れたり。そういうトラブルは誰にもありうるということは嫌というほど学びました。だから日本で在留資格を失った方に「本人の不注意だ」と言える立場ではありません。

中島 そういえば私も、海外でビザがない期間がありました。アメリカで半年間、小学校で教えるインターンをしたことがあるんです。滞在を延長したくて大学に登録しビザの切り替えをしたんだけど、いつまでもビザが来なくて。

小林 観光ビザで働いている日本人だって海外にはたくさんいます。でも私や中島さんがひどい目に遭わなかったのは、当時の国の力も関係するのかもしれませんね。日本で欧米人が収容されているという話をあまり聞かないのと同じで。

中島 収容される人は国によって偏りが大きい。たとえばアメリカ人などは何かあっても大使館が動いたりして、収容されることはほとんどないとも聞きました。

小林 結局、どこからも守られていない人たちが、さらに日本人に叩かれているんですね。

<後編につづく


(写真提供:NHK)

『やさしい猫』【あらすじ】
シングルマザーで保育士のミユキ(優香)は、震災ボランティアで訪れた東北で、スリランカ人のクマラ(オミラ・シャクティ)と出会う。1年後、運命的な再会を果たした2人は次第に惹かれ合い、ミユキの娘・マヤ(伊東蒼)を交えた3人は家族のように一緒に暮らし始める。

婚姻届を提出し正式に夫婦となった直後、クマラは在留期間が過ぎてオーバーステイとなったため入管施設に収容され、強制退去を命じられる。処分の再考を訴えるも、入管職員・上原(吉岡秀隆)は事務的に拒絶する。口頭審理では偽装結婚ではないかと疑われ、絶望するクマラとミユキ。入管での面会はアクリルごしに30分のみ。理不尽な対応への怒りと、助けられない悔しさにミユキとマヤは打ちひしがれるが、わずかな望みを託して弁護士・恵耕一郎(滝藤賢一)を訪ねる。その恵弁護士を紹介してくれたのは入管でこの件に対応した上原だった。

クマラを助けるためには、裁判を起こして処分の取り消しを勝ち取り、在留特別許可を得るしかない。ただ家族3人で暮らしたいだけ…ささやかな願いを胸に秘め、国に対する戦いに挑んでいく。

土曜ドラマ「やさしい猫」
【放送予定】2023年6月24日(土)放送開始 全5話
       毎週土曜よる10時~10時49分[総合]
【原作】中島京子
【脚本】矢島弘一
【音楽】林正樹
【出演】優香 伊東蒼 オミラ・シャクティ 山田真歩 石川恋 南出凌嘉
            池津祥子 麻生祐未 余貴美子 滝藤賢一 吉岡秀隆 ほか
【制作統括】倉崎憲
【プロデューサー】伴瀬萌 大久保篤
【演出】柳川強 安藤大佑