諦めた私と、引き留めた彼
幼馴染が私の秘密を知ったのは、ただの偶然に過ぎない。通っていた中学の校舎から飛び降りようとした私を、たまたま彼が発見して引き留めた。その成り行きで、私は衝動的に彼に虐待の事実を打ち明けた。“打ち明けた”と言えば聞こえはいいが、ほとんど半狂乱で怒鳴り散らしたのが本当のところだ。
死なせてほしかった。そのために、校舎から人気がなくなるのを待ち、ベランダの死角ーー建物の柱の陰に身を潜めてその時を待っていたのだ。それなのに、飄々とした顔で私を問い詰める彼に対し、強い憤りを覚えた。
「お前のそれ、どっち」
「え?」
「父親?母親?どっち?」
首筋に残る青紫色の痣を指差し、私の目を真っ直ぐに見据えて、彼は言った。この人には、嘘も誤魔化しも通用しない。瞬間的にそう悟り、私は事実を淡々と述べた。
「どっちもだけど。昨日のこれは、父親」
私の答えを聞き、彼はさらに質問を重ねた。
「お前、どうしたいの」
「ほっといてほしい」
即答した。それ以外、私は何も望んでなどいなかった。誰かに助けてもらえるかも、なんて、そんな淡い期待は、小学校の古い校舎に根こそぎ置いてきた。背中一面に広がる青痣を見せて、担任教師に助けを求めた日のことを今でも覚えている。あの時、若い女性教師は、「怒られるようなことをしちゃだめよ」と言った。私の目を見ず、今すぐこの場から逃げたいような顔をして。