「お前の言うことなんて誰も信じない」

父はいつも、私に言った。

「お前の言うことなんて、誰も信じない」
「余計なことを言うなよ。お父さんもお母さんも、お前のためを思ってやっているんだから。大人はみんな、お前なんかより、お父さんとお母さんの言うことを信じるもんだ」

その通りだった。大人は、私の言葉を信じなかった。私の言葉を聞こうともしなかった。だから私は、人を信じるのをやめた。人に助けを求めることもやめた。それなのに、私より少し背の高い幼馴染は、ベランダの青い手すりから私の手を引き剥がした。有無を言わせぬ、強い力だった。

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「で?お前はそれが辛いからここから飛ぶわけ?」
「悪い?」
「あぁ、悪いね。俺は知っちゃったし、見ちゃったからな。ここでお前に死なれたら、めちゃくちゃ胸糞悪いわ。お前、逆だったらこれを見過ごして帰れんの?死にたいのか、じゃあご自由に、ってできんの?俺が此処から飛び降りようとしたら、止めないで黙って見てんの?」

一気に捲し立てられて、思わず言葉を失った。悔しいが、彼の言うことはもっともだった。私が逆の立場でも、多分間違いなく止める。人が死ぬ瞬間を、黙って見過ごすなんてできない。まして、それが顔見知りの同級生ともなれば尚更だ。

ほぞを噛む私に対し、彼は「お前が“死にたい”と思う一番の理由って何?」と更に問うた。その問いの答えを、彼はすでに知っているかのようだった。私が両親から受けている虐待の種類が、「暴力」だけにとどまらないことを。瞬間、羞恥と屈辱で私の感情は爆発した。

「何なのよ……!何であんたにそんなことまで話さなきゃなんないの?何でも知ってます、みたいな顔して、人のテリトリーに土足で踏み込んできて。話したらあんた、なんかしてくれんの?助けてくれんの?毎日殴られて、怒鳴られて、髪の毛引きずられて、父親に犯されて。そういうの知ったところで、あんたに何ができんのよ!どうせ私を汚いって蔑んでおしまいでしょ?みんなそうでしょ?私が悪いって、そう言いたいんでしょ?!」

堪えきれずこぼれた涙を、制服の袖でめちゃくちゃに拭った。涙なんか見せたくない。涙を見せたら負けだ。傷ついたことを認めたくない。涙さえ見せなければ、傷ついたことにはならない。