俺は、新聞配達していたんだ。小学校の六年生から。

 早いだろ。

 言いふらしたりしないだろうから言うけど、俺の父親ってヤクザなんだよ。

 そう、暴力団のしかも組長。

 マジさ。ヤバいだろ? 

 俺もそれを知ったっていうか、理解したのは小学校の高学年になってからなんだけどさ。もちろん俺は全然関係ないよ。それこそ父親にほとんど会ったことないし。

 全然だよ。なんか、うんと小さい頃にはどっかのおじさんみたいな人が家にいたことがあったような気がするけど、それだけだ。顔も知らないよ。

 いや、ずっと母さんと二人きりだった。

 二人でアパート暮らし。

 そう、見かけ上はどこにでもいそうな母子家庭ってやつだよ。

 母さんは保険の外交員ってのをやってる。一応はちゃんと稼いでいるんだけどさ。めっちゃ貧乏ってわけでもなかった。

 でも、違ったんだ。母さんはそのヤクザな父親から一応、生活費みたいなものは貰っていたんだ。

 驚いたっていうか、どうしてそんな奴と結婚したんだって思ったよ。

 あぁ違うか、そう内縁の妻って感じか。籍には入っていないみたいだ。だから俺の紺野(こんの)っていうのは母親の名字。

 いや、母さんの方な。祖父さん祖母(ばあ)さんとは、縁が切れてるのかな。それも会ったことないよ。話をしたこともない。ヤクザな男と結婚しちまった娘に呆れて音信不通、じゃないか。勘当ってことになってるんじゃないかな。まぁ、たぶんそうだと思う。だから身内って言えるのは本当に母さんだけ。

 それで、そんなヤクザな父親の金でなんか暮らしたくないって思っちゃってさ。

 そう思うだろ?

 すぐに新聞配達のバイトを始めた。六年生からね。

 母親は何にも言わなかったよ。

 まぁちょっと言い争いみたいなことになったけど、別にそんなに悪い母親ってわけでもないしさ。俺のことをちゃんと育ててくれてるんだし。

 自分の小遣いは自分で稼ぐことが悪いことでもないだろう? そう言ってるよ。実際、小遣い貰ったことないしね新聞配達始めてからは。

 まぁ高校卒業したらすぐに働いて、ヤクザな父親なんかの金で暮らさないようにしたいとは思ってるけどさ。

 大学行った方がいいなら奨学金とかいろいろ手段はあるだろうし。少しずつは考えているけどね。