筧さんとは、中二のときに知り合ったんだ。

 そう、新聞配達していてね。筧さんの家にも配達していたんだよ。

 中二の夏休みだったかな。もう顔見知りにはなっていたんだ筧さんとは。あの人朝めっちゃ早いんだ起きるの。昔から眠りが短いんだってさ。それで朝早くからジョギングしたりしてる。昼寝もよくするらしいよ。

 たまたま昼間に近所でばったり会ってさ。筧さんがちょっと昼飯を外に食べに行くけど、奢(おご)るぞって言われてさ。

 びっくりしたよ。顔見知りではあったけどなんで? って。勤労少年にはがんばれよって応援するものだって言われてさ。まぁそりゃあありがとうございます、ってレストランに連れてってもらって美味しいもの食べてきた。

 そのときに、どうしてそんな若い内からバイトしているんだって訊いてきてさ。

 で、まぁ、父親がヤクザってところはちょっとぼかして、とにかく母一人子一人で貧乏だからって事情を話したらさ、じゃあ、高校生になったらうちでバイトしないかって言われてさ。さすがに中学生のうちはカラオケ屋でバイトするのは無理だから。

 新聞配達するより時給はよかったし、長くできるからさ。

 それで、高校に入ったらすぐに来たんだ。

 いや、中学の頃にもたまに部室には来ていたよ。でもまぁ中学生がカラオケに出入りしてるのもなんだしさ。その辺はきちんとしなきゃって。

 最初の頃はほとんど俺の個室みたいになっていたけどな。

 そう、その辺のコミックやなんかも全部俺の趣味。古本屋とかで買ったものだし、貰ってきたものもある。

 そもそも、生活のためにバイトしている高校生なんて、そうそういないじゃないか。バイトしてる連中はたくさんいるだろうけど、大体は自分の小遣いを稼いでいる感じだろ? 切実なものじゃないから。

 それに、いくらカラオケ屋をやってるからって、そんなにたくさんの人と知り合えるわけじゃないし、さっきも言ったけど公に募集するものでもないしさ。

 あくまでも、筧さんや広矢さんたちが、たまたま知り合って大丈夫と思える高校生たちを呼ぶだけのものだから。

 いろいろ、勉強になってるよ。

 ここでね。

 俺が一人でいる頃には筧さんや奥さんや、それこそ広矢さんとかが顔を出してくれて、あれこれ話をしたりしてくれるんだ。仕事の話とかさ。

 大人になって何をしたらいいのか、自分には何が向いているのか、俺たちガキが知らない世界のことを話してくれたりして。