水谷豊という俳優ができるまで
その娘は女優となり、今年度後期のNHK朝の連ドラ『ブギウギ』の主人公をつとめることに――。本音を言うと、趣里には芸能界に入ってほしくなかった。だってこの世界、どんな男がいるかわからないし。(笑)
それに、天国と地獄を味わわなきゃいけない。だから子どもの頃から、「こっちに来ちゃダメ」と言い聞かせていたんですけどねぇ。大学時代、蘭さんの舞台を見に行って、興味を抱くようになったみたいで。反対されると思っていたからでしょう、僕には言いませんでしたが、蘭さんにはその思いを打ち明けていたみたいです。今はもう自分の世界があるようなので、僕は一切何も言いませんが。
今回、『水谷豊 自伝』のために過去を振り返り、つくづく感じるのは、人との出会いに恵まれていたなぁ、ということです。本にも登場しますが、大スターともいうべき諸先輩方にも本当にお世話になったし、親友だった優作ちゃんを始めいい出会いが、水谷豊という俳優を作ってきた。いい作品との出会いにも、人との出会いがあってこそ生まれるものですから。
本を作るにあたって、先輩方からの言葉なども改めて思い起こし、記憶に刻み直すことができ、本当にいい機会だったなと思います。
『水谷豊 自伝』(著:水谷 豊、松田 美智子/新潮社)
こんなに自分の過去を振り返ろうとしたことは一度もなかった――。
岸田今日子と蒲団の中でトランプをした子役時代、初めての挫折と衝動的な家出、
『傷だらけの天使』の忘れられない共演者、『熱中時代』の本当のモデル、離婚と再婚、親友との永遠の別れ、切望した相棒と裏相棒、俳優としての美学と監督としての思い――出演作の秘話から実人生の起伏、多彩な交友録まであますところなく語り尽くした初の著作。