『おろち』(1969年)
不思議な力を持つ、不老不死の少女おろち。彼女が出会う人々を通して、人間社会の深淵に潜む悲哀と恐ろしさを描いたオムニバス作品

酒井 将来への不安はありませんでしたか?

楳図 僕、この時に「人生、あたふた焦ってもしょうがない。運にまかせてやるしかない」って、お坊さんみたいな心境になっちゃった。さすが、高野山生まれでしょ(笑)。他人が先にデビューしても羨ましがらない、慌てない。チャンスが来た時にすぐに出ていけるよう準備だけはしておこう、って。

酒井 何歳になっても、人は自分と他人を比較しがちですが、若くして悟りに到達された。

楳図 人と比べてばかりだと迷路に入り込む。1つでも、自分なりの「あっ、これは掴んだ」と思うことに目を向けないと。

酒井 その「これを掴んだ」が、《恐怖マンガ》だったわけですね。なぜ、《恐怖》だったのでしょう。

楳図 家にマンガを読みに来ていた近所の子どもたちを観察しているうちに、怖いシーンばかり繰り返し読んでいることに気がつきました。それならば怖いマンガを描けば人気が出るのではないかと思ったのです。

酒井 観察が恐怖マンガを生んだのですね!

楳図 でも、いざ描こうとしたら、「《怖い》ってなんだろう?」って。僕は幽霊も見たことがなかったから、わからないんですよ。でも、ふと思い出したのが、小学校に入る前に住んでいた奈良県村の伝説「お亀池のへび女」の話です。

小さい頃、寝る前に父が話して聞かせてくれていたのですが、あの時に湧き上がってきた感覚が《怖い》ということじゃないかって。僕のマンガに出てくる「へび女」の原型ですね。

<後編につづく


楳図かずお大美術展公式サイト

会期:2023.06.10-08.06
会場:名古屋 テレピアホール(名古屋市東区東桜1-14-25 テレピア2F)