「ファンのために」引退セレモニー

その年限りで引退せず「あと1年」としたのは、球団から「来年も戦力として考えている」と言っていただいたからです。拾ってもらった身としては、その気持ちに応えたいと思いましたし、恩返しもしたい。

1年目は選手に比重を置いていましたが、2年目はもう少しコーチ寄りの立ち位置で、それでも「行け」と言われればいつでも投げられる準備をして、選手としても役に立ちたいと考えていました。

22年は引退へのカウントダウンの年となりましたが、キャンプインも開幕も、いつもと変わらない気持ちで迎えることができました。それはシーズン中も同じ。

チームは最後まで優勝争いをしていましたから、僕の引退なんて正直、どうでもよかった。引退試合やセレモニーもお断りしていたくらいです。もともとそういうところで目立つのが好きではなかったですしね。

でも、球団は「そういうわけにはいかない」と。18年現役でやってきた僕への配慮もあったでしょうし、それ以上に「ファンのために」というのが大きかったと思います。

断り切れずに、引退試合は9月30日のホーム最終戦、対千葉ロッテと決まり、試合終了後にセレモニーをしていただけることになりました。本音をいえば、最後の最後まで遠慮したい気持ちでしたが。

※本稿は、『#みんな大好き能見さんの美学(ポーカーフェイスの内側すべて明かします)』(ベースボール・マガジン社)の一部を再編集したものです。


#みんな大好き能見さんの美学(ポーカーフェイスの内側すべて明かします)』(著:能見篤史/ベースボール・マガジン社)

阪神タイガース、オリックス・バファローズで選手、コーチとして18年。「みんな大好き能見さん」の野球人生を、能見さん本人が初めて記します。愛がいっぱい、毒も忘れない言葉から、成長のヒント、伝え方のアイディアを見つけられる一冊。