「とにかく何かの関係があって、先生がごまかしてくれてるんだってさ」
「関係。言えないような?」
「言えないんだ。それは誰にも。でもいい人なんだよ」
「先生を、人、って呼べるってことは、先生と生徒以上の関係ってことなんだろ。そこはツッコまないでやろうぜ。いいじゃんそういう関係だってことで」
「いいけど」
 
 うん、そうだね。離婚した。
 私の親が離婚したのは、中二のときかな。
 中学校二年生のとき。それまではね、普通っていうか、うん、本当に普通の家庭。
 お父さんとお母さんと私と三人家族。マンションに住んでいた。や、そんな立派なマンションじゃなくて、賃貸のかな。でもちゃんと私の部屋もあって。
 お父さんは旅行代理店で働いていた。今も、そうみたい。
 お母さんは専業主婦だった。結婚する前はデパートの店員さんだったって。あーそう、そこの、婦人服売り場にいたって。
 結婚して、私を妊娠したときにそこを辞めたんだって。
 それで、私を産んで、育てて、幼稚園に行って小学校に入ってそのまま中学校に行って。大怪我とか入院とか、二人が大喧嘩するとかそんなことも全然なくて、三人でずっと暮らしてきて。
 普通でしょう?
 自分の記憶って、辿ったことある?

「記憶?」
「記憶。思い出。生きてきた日々」