(撮影:婦人公論.jp編集部)
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんによる『婦人公論』の新連載「老いの実況中継」。91歳、徒然なるままに「今」を綴ります。第6回は、【91歳、ぞ〜っとしたわけ】です──。 (イラスト=マツモトヨーコ)

人類始まって以来初めての
命題かもしれない

私の生まれ月は、うるわしの5月。毎年、我が家の庭にピンクや黄色のバラが咲く頃、誕生日を迎えます。

今年も無事にその日を迎え、晴れて91歳に。「ひぇ~、もうそんな歳なのね」と、ちょっぴりびっくりしました。

庭の手入れをしているのは娘です。以前、「私が無理して家を建て替えて同居したおかげで、あなたも庭いじりができるようになったのよね」などと、恩着せがましい発言をしたこともありました。でも私自身、庭の恩恵を受けているのは事実です。

最近、私も以前ほどは出張や講演に飛び回らなくなり、家にいる日が多くなりました。娘は仕事に出かけているので、日中はいません。誰も来ない日は、庭の風景や開けた窓から入ってくるバラの香りが、いい慰みになります。猫を撫で、花を眺めながら「おやおや、私もついにご隠居の年齢かしら」などと思ったりもします。

昨年4月に乳がん切除の手術をしたので、これまで定期的な検査を受けてきました。先日、術後1年の検診に行ったところ、とくに問題はなし。6ヵ月後の検診で再発がなければ、《無罪放免》になるそうです。仕事を手伝ってくれている70代の助手が、「よかったですね。これで100歳まで大丈夫」と喜んでくれ、「そういえば93歳になる叔母がね……」と、こんな話をしてくれました。

彼女の叔母が病院に行ったときのこと。お医者さまから「大丈夫です。あなた、100歳まで生きられますよ」と言われ、叔母は「100歳まで! 先生、私はいったい何をして生きていたらいいんでしょうか?」と問い返したそうです。助手曰く、「いやぁ、なんと哲学的な問いなんだろうと感じました」。

最近「健康寿命」とよく言われるようになりましたが、2019年の日本人の健康寿命は、男性は平均72歳、女性は75歳。それを過ぎたあたりから、健康上の問題で日常生活になんらかの制限が生じる人が増えていきます。かくいう私も、ヨタヨタヘロヘロ。今では1人で外出するのも不安です。健康寿命を過ぎ、仮に100まで生きるとして、それまでいったい何をし、どう生きるべきか。私たちは人類始まって以来初めての哲学的命題に突き当たっていると言ってもいいかもしれません。

また、寿命が延びると、経済的に持ちこたえられるかどうかといった心配も生まれます。こちらはきわめて現実的な問題です。